今回紹介するのは、昨年の2018年11月に発表されたばかりの論文で、チームタイムトライアル(TTT)のエアロダイナミクスに関する論文。因みに、この論文の著者は、先日紹介したダウンヒルポジションのエアロダイナミクスに関する論文の著者と同一である。
論文の概要
All the results from today's TTT racing are available here https://t.co/7JfeeJEU6M #UCIDoha2016 pic.twitter.com/dztSta3aZo
— UCI (@UCI_cycling) 2016年10月9日
7~9人構成のトレイン走行では、単独走行時と比べて、約二倍効率良く走れることがアイントホーフェン工科大学(オランダ)のBlocken教授らの研究によって判明した。成果は、2018年11月に出版されたJournal of Wind Engineering & Industrial Aerodynamicsに掲載された。
ドラフティングによる空気抵抗の減少は、誰もが知る確立された原理である。しかしながら、トレインの人数及びその間隔の違いが空力学的抵抗に及ぼす影響についてはこれまで報告されていなかった。
Blocken教授らは、CFD(Computational Fluid Dynamics, 数値流体力)シミュレーションを用いて、トレインの人数が2~9人の時と各車両の間隔が0.05–5 mの時の各ポジションの抗力を調べた。
解析の結果、抗力は後方のポジションになるほど減少していき、5番目以降のポジションではあまり差がなくなることが判明した。9人構成で車両間隔が0.15 mの時の平均抗力は、単独の時と比較して、51.1%にまで減少する。
また、車両間隔も近いほど抗力は減少するが、0.05 mの時と0.15 mの時ではほとんど抗力に差が無いことも判明。
筆者らは、トレイン走行によるドラフティングがライダーらに絶大な恩恵をもたらすことを証明した。
詳しい内容に関しては、原著論文(下記リンク)を参照してほしい。論文自体はオープンアクセスなので、誰でも閲覧可能である。
Blocken, B., T., Toparlar, Y., van Druenen, & Andrianne, T. (2018). Aerodynamic drag in cycling team time trials. Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics, 182, 128–145. DOI: 10.1016/j.jweia.2018.09.015
一般サイクリングへの応用
以下、個人的な考察。
正直、TTTとかレースに出ない私には関係のない話。しかし、この論文は一般のサイクリストにとっても大変興味深い内容を含んでいる。よって、一般サイクリスト視点からこの論文をさらに考察してみる。
一般サイクリストで想定されるグループ走行人数はせいぜい2~5人程度だろう。その場合、上記の通り、後ろのポジションになるほど楽に走れる。よって、グループ内に初級者がいる場合、そのレベルに応じてトレインの後方に配置することで、全体的にバランスよく走れるかもしれない。
また、面白いのは、2人以上のトレインから先頭のライダーにも空力学的な恩恵があるという点である(僅か2%程度ではあるが)。実は、これは先行研究において既に報告されていることで、今回改めて証明されたことになる。これに基づくと、ロードバイク巡航の際の所謂「ただ乗り」は、完全な片利共生というわけではないということになる。尤も、精神的に良い気はしないのは変わらないが。
ロードバイク間の距離に関しては、どのくらいまで近づけばいいのかという点が気になるところ。既に上で述べたように、間隔を狭くするほど空力学的に有利だが、15 cm(手のひら程度)以上近づいでも殆ど意味はない。ただ危険性が増すだけである。だが、一般サイクリストからすると、15 cmというのはまだ近く感じる。研究結果によれば、15 cmの時と50 cmの時では平均抗力は最大で2.3%しか変わらない。となれば、車列を組む際、その間隔は50 cm(ホイールの直径が約60 cmなので、それより少し短いくらい)でも良いような気がする。さらに言うと、その間隔が1 mの場合でも、一般サイクリストにとってはその効果の感じ方はあまり変わらないように思う。流石に5 mも離れれば、その影響はそこそこ大きいようだが。